メディカルフィットネス施設は、医学的な要素を取り入れた運動施設で、人々の健康寿命を延ばし、生活の質(QOL)を向上させるための大切な場所です。今回は、医療法人がメディカルフィットネス施設を開業する際に確認が必要な医療法42条施設(疾病予防運動施設)について、施設基準や申請方法、そして運営のコツをご紹介します。

医療法42条施設とは

医療法人は、原則として病院や診療所の運営以外の業務を行うことが禁じられています。しかし、医療法42条では、病院や診療所の附帯業務として認められる業務もあります。

医療法42条によると、医療法人は「疾病予防のために有酸素運動を行わせる施設」を運営することが認められています。つまり、医療法42条に定められた附帯業務として、メディカルフィットネス施設を開業・運営することができるのです。

この「疾病予防のために有酸素運動を行わせる施設」は、「医療法42条施設」や「42条施設」などと呼ばれています。

医療法42条施設とメディカルフィットネス:それぞれの定義とその違い

メディカルフィットネスは広義に解釈され、医学的要素を取り入れたフィットネス施設を指します。介護施設や自治体、一般的なフィットネスクラブ、一般企業など、さまざまな運営者がメディカルフィットネスに参入できます。

一方、医療法人がメディカルフィットネス施設を運営する場合、医療法42条で定められた附帯業務として「疾病予防のための有酸素運動を行う」施設として認められています。そのため、医療法人は、医療法42条に基づいた疾病予防運動施設(医療法42条施設)の申請を行う必要があります。

42条施設は、他のメディカルフィットネス施設と同様に、厚生労働大臣認定の「健康増進施設」や厚生労働省指定の「指定運動療法施設」の認定・指定を受けることが可能です。ただし、42条施設は医療法に基づいた施設であり、健康増進施設や指定運動療法施設とは異なるものであるため、混同しないように注意が必要です。

42条施設の認定を取得しても、健康増進施設や指定運動療法施設の認定・指定申請は別に行う必要がありますので、この点を留意してください。

「指定運動療法施設」として指定を受けると、利用者が施設利用料を医療費としてみなされ、医療費控除を受けられるようになります。健康増進施設や指定運動療法施設の認定・指定を視野に入れる場合は、さまざまな要件を満たす施設づくりが求められます。42条施設の開業前から、健康増進施設や指定運動療法施設の認定・指定取得についても十分に検討することをお勧めします。

医療法42条施設の施設基準:満たすべき要件とは?

厚生労働省は、医療法42条施設の施設基準を以下のように定めています。(※1)

職員に関する基準

  1. 健康運動指導士その他これに準ずる能力を有する者

設備に関する基準

  1. トレッドミル、自転車エルゴメーターその他の有酸素運動を行わせるための設備
  2. 筋力トレーニングその他の補強運動を行わせるための設備
  3. 背筋力系、肺活量測定用具その他の体力を測定するための機器
  4. 最大酸素摂取量を測定するための機器
  5. 応急の手当てを行うための設備

運営方法に関する基準

  1. 成人病その他の疾病にかかっている者及び血圧の高い者、高齢者その他の疾病予防の必要性が高い者に対し、適切な保険指導及び運動指導を行う施設として運営されること。
  2. 附置される診療所は、施設の利用者に対する医学的な管理を適切に行えるよう運営されること。
  3. 会員等の施設の継続的な利用者に対して健康診断、保険指導及び運動指導を実施すること。
  4. 会員等の施設の継続的な利用者に対して健康記録カードを作成し、これを適切に保存、管理すること。

42条施設に附置される診療所についての規程

  1. 医療法第12条の規定による管理免除又は2か所管理の許可は原則として与えないこと。
  2. 診療所と疾病予防運動施設の名称は、紛らわしくないよう、別のものを用いること。
  3. 既設の病院又は診療所と同一の敷地内又は隣接した敷地に疾病予防運動施設を設ける場合、当該病院又は診療所が疾病予防運動施設の利用者に対する適切な医学管理を行うことにより、新たに診療所を設けなくともよいこと。

すでに診療所や病院などの医療機関を運営しており、医療機関に隣接して42条施設の建設・開業を検討している場合は、特に上記3の規程に反しないよう注意が必要です。

42条施設の申請手続き

医療法人がメディカルフィットネス施設を運営するためには、42条施設の申請を行い、都道府県知事から定款変更の認可を得る必要があります。この手続きは手間がかかり煩雑なものとなるため、開業準備は計画的に取り組むことが求められます。

医療法42条施設開業:定款変更と必要な申請手続き

医療法人が医療法42条に定められた附帯業務を始める場合、開業前に定款の変更が必須です。定款の変更には、施設所在地の都道府県知事の認可を受ける必要があります。定款変更の具体的な手続きは都道府県によって異なりますので、以下に記載する内容は一例です。実際の手続きにあたっては、都道府県の指示に従って手続きを行ってください。

多くの都道府県では、医療法人が定款変更の申請をする前に事前調査や仮申請を実施しており、認可は二段階で行われることがほとんどです。事前調査・仮申請後に追加書類の用意や補正を経て本申請を行い、事業所の所在地である都道府県知事の認可を受けて開業するケースが一般的です。

定款の変更には、各都道府県が指定した様式の定款変更認可申請書、敷地および建物の構造設備の概要、施設の平面図、土地・建物に関する登記簿謄本の原本、定款変更後2年間の事業計画書と予算書、直近会計年度の税務申告書一式などの提出が求められます。その他の書類も各都道府県から要請を受けた場合は提出の必要があります。

定款の変更には1~3ヶ月程度かかるため、予定した時期に開業するためには、余裕を持って手続きを進めることが必要です。

医療機関向け42条施設の利点:経営と患者ケアへのメリット

医療法人が運営するメディカルフィットネス施設は、医療法42条の施設基準を満たしているため、利用者は十分な設備を活用して安心・安全な運動を実施できます。また、医療法人がメディカルフィットネス施設を運営することで、医療機関にもさまざまなメリットがあります。

メリットの一つに生活習慣病治療に伴う診療報酬があります。高血圧、高脂血症、糖尿病などの生活習慣病の指導管理料は、患者1人につき1ヶ月1,000点(10,000円)以上が算定できます。その患者様に疾病予防運動施設(42条施設)を利用していただくことで、健康増進の役に立つだけでなく、42条施設の収入と病院やクリニックの増収にもつながります。

また、広告宣伝もメリットになります。医療機関は基本的に広告宣伝ができませんが、42条施設は一般的なフィットネス施設のようにさまざまな媒体に広告を出し、施設を宣伝することが可能です。その際、42条施設と同じ運営元の病院・診療所を紹介することで、病院・診療所の知名度向上にも貢献できます。
42条施設の利用者の目的
生活習慣病治療や予防、健康増進、リハビリ後の運動など、多岐にわたります。42条施設を立ち上げる際には、医療機関とどのように連携し、どういった利用者の方に対してどんなサービスを提供するのかを明確にすることが大切です。
連携の重要性
医療機関と42条施設の両面から利用者一人ひとりの健康を支えられることは、42条施設ならではの利点です。医療機関の患者が42条施設を利用することもあれば、42条施設の利用者が身体の不調を感じた時に提携医療機関を訪れることもあるでしょう。医療法人が医療機関と42条施設を運営することには、相互にメリットがあると考えられます。

医療法人が運営するメディカルフィットネスである42条施設は、健康寿命の延伸やQOL(生活の質)向上など、地域の健康課題解決の一助となり得ます。42条施設を医療法人が運営することは、地域全体、ひいては日本全体の健康増進に寄与する可能性を秘めています。

42条施設:これからの課題

42条施設は地域の皆様の健康を支えるだけでなく、医療機関にもメリットをもたらす施設と言えるでしょう。しかし、医療法人がメディカルフィットネス施設を開業し、経営を安定させるうえでは、42条施設ならではのいくつかの課題があります。

その中でも重要な課題の一つに、42条施設単独で黒字化できていない施設が多いことが挙げられます。平成30年に公益財団法人日本健康・体力づくり事業財団が行った調査によると、医療法42条施設を運営する医療法人のうち、収支状況について「おおむね黒字」と回答した施設は全体の9.7%にとどまっています。

このことから、42条施設の運営においては収益の確保が大きな課題となっており、医療機関との連携や施設利用者の増加など、経営を安定させるための工夫が求められます。

収支が均衡を保っている施設は12.5%であり、「おおむね赤字」の施設は64.6%と、全体の過半数を占めています。これは、多くの医療法人が「地域貢献」や「医療サービスの向上」を目的として42条施設を運営しており、必ずしも利益を追求していない施設が多いことが原因と考えられます。

42条施設を開業する理由は医療法人によってさまざまですが、42条施設を安定して運営することが利用者の継続利用につながり、地域住民の健康を末永く支えることになります。したがって、42条施設の開業を考える際には、事業継続のために黒字化に向けた取り組みが必要です。

医療法42条施設の黒字化戦略:収益向上を目指す

42条施設が苦戦を強いられている背景のひとつに、医療法人におけるフィットネス人材の不足があります。医療法人内でフィットネス施設の開業・運営に精通する人材がいることはごく稀です。また、医療法人が42条施設を立ち上げる際、フィットネス施設としての設備・サービスの構築や提供方法の検討が不十分であるケースや、広告宣伝のノウハウが不足しているために集客がうまくいかないケースもあるようです。

このような事態を未然に防ぐためには、入念な事前調査、フィットネス施設やメディカルフィットネス施設に詳しい人材の早期確保が必要です。これにより、フィットネス施設の実態や運営方法を具体的に精査することができます。また、広告宣伝についても、信頼できるパートナー企業を見つけることで問題解決を図ることが求められるでしょう。

まとめ

医療法42条施設(疾病予防運動施設)は、医療機関と42条施設の双方に良い影響をもたらし、年齢や疾病の有無を問わず、多くの方に利用していただくことで、地域の皆様の健康に貢献できる基盤を持っています。

しかし、認可を得るためには定款変更などの煩雑な申請が必要で、参入障壁が高い現状です。また、42条施設を開業しても、さまざまな問題から理想的な運営ができない場合や、黒字化が難しい場合が多くあります。黒字化できなければ、施設の継続も難しくなるかもしれません。

42条施設とそこで勤務するスタッフのポテンシャルを最大限に発揮するためには、開業までに42条施設やメディカルフィットネスについて十分に理解し、綿密な計画を立てて開業・運営を進めることが望ましいでしょう。

株式会社BHMでは、医療法42条施設の開業を検討されている医療法人の皆様をサポートしています。お気軽にお問い合わせください。


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