フィットネス業界の市場規模は、2012年から少しずつ成長してきました。2018年には前年比4%増の約4,800億円、会員数も前年比11%増の514万人に達し、過去7年間で最大の伸びを見せました(Fitness Business「日本のクラブ業界の現状と課題」より)。この業界で特に増えているのが小規模なパーソナルジムですが、競争が激しい中でどのように生き残っていくべきでしょうか?
現在、注目されている新しい事業スタイルの一つが、理学療法士の専門知識と技術を活かしたメディカルフィットネス施設です。ここでは、理学療法士がメディカルフィットネス施設を運営する意義やそのメリットについてご紹介します。
フィットネス施設の差別化戦略
最近、「これからのビジネスモデルはパーソナルジムです」や「収益性が高いのは1対複数のセミパーソナルジムです」と提案するフィットネス経営コンサルタントが増えています。しかし、経営には「なぜこの事業を始めるのか」「なぜ続けるのか」といった経営者の想いをお客様にしっかりと伝えることが重要です。そして、その想いを基に「事業をどう収益化するのか」という具体的な戦略を立て、事業の目的を達成するために何をすべきかを明確にすることが必要です。
フィットネス事業においては、自身の強みを生かして競合店と差別化を図ることが成功の鍵となります。メディカルフィットネス事業は、理学療法士の資格を活かし、高品質なサービスを提供することで、他のフィットネス施設と大きく差別化することが可能です。
理学療法士の独立開業
理学療法士は「理学療法の提供」を目的とした独立開業が認められていません。理学療法士及び作業療法士法では、理学療法士は「医師の指示の下に、理学療法を行うことを業とする者」と定められており、医師の指示なしに理学療法を行うことができないからです。
しかし、理学療法士の技術と経験は医療機関だけで発揮されるわけではありません。整体院や介護施設、フィットネス施設などの分野で、理学療法士としてではなく、一般的な起業家として会社を立ち上げることが可能です。フィットネストレーナーとして開業し、理学療法士の資格は付加価値として活用するという考え方です。このように、理学療法士のスキルをさまざまな場面で活かすことができます。
理学療法士がメディカルフィットネス施設を開業するメリット
理学療法士がメディカルフィットネス施設を開業する意義は非常に大きいです。
従来のフィットネス施設は、体力づくりを楽しむ場として機能しており、人々の交流を促進し、QOL(生活の質、人生の質)を維持・向上させる役割を果たしてきました。しかし、フィットネスクラブの利用者の中には、身体の痛みや不調を抱えながら運動を続けている人が多くいます。例えば、「スタジオでのレッスンを思いっきりやりたいけれど、膝や腰が痛くてできない」という声をよく聞きます。このような痛みや不調を抱えた利用者は、運動を楽しむことができず、身体のケアを目的としてフィットネスクラブを利用するケースも増えています。
理学療法士が運営するメディカルフィットネス施設は、こうした利用者のニーズに応えることができます。理学療法士の専門知識と技術を活かして、運動中の痛みや不調を軽減し、安全かつ効果的な運動プログラムを提供することが可能です。これにより、利用者は安心して運動を楽しむことができ、その結果、QOLの向上にもつながります。
さらに、メディカルフィットネス施設は、単なるフィットネスクラブ以上の価値を提供します。理学療法士の指導のもとで行われる運動は、予防医療の一環として機能し、利用者の健康維持や疾病予防にも寄与します。このように、理学療法士がメディカルフィットネス施設を開業することで、フィットネスと医療の橋渡しとなり、地域社会全体の健康増進に大きく貢献できるのです。
理学療法士が運営するフィットネス施設の一番のメリットは、医療現場での経験と知識を活かせることです。利用者がフィットネス施設に期待することの一つに「医療資格を持ったスタッフによる指導」があります。また、「身体的効果」も重視されています。これは、身体の痛みや症状を考慮した運動指導が求められており、信頼性や安心感が重要であることを示しています。
例えば、膝の手術を受けた方がリハビリ目的で来られた場合、理学療法士はその方がどのような手術を受け、どのようなリハビリをしてきたかを理解しています。また、医学的に見てどのくらいの期間でどれほど回復するかを把握できるため、利用者は安心して運動を続けることができます。
さらに、「運動することで症状が悪化しないか」といった不安を抱えている利用者も多いですが、理学療法士は様々な疾患に関する知識を持ち、リスク要因も適切に把握しています。そのため、理学療法士が指導・運営する施設は、利用者にとって信頼感と安心感を提供できる場所となります。
このように、理学療法士が運営するメディカルフィットネス施設は、他のフィットネス施設にはない安心と信頼を提供することができるのが最大のメリットです。
厚生労働省の施設認定制度と開業費用について
厚生労働省の施設認定制度については、基準を満たせるのであれば申請を考えても良いですが、初期費用がかなりかかる点に注意が必要です。そこで、開業資金を抑えられるというパーソナル型施設のメリットを活かした経営計画が求められます。
医療機関との連携によるメリットと重要性
病気の診断は医師だけが行えるため、医師との連携は非常に重要です。医療機関と連携することで、施設のお客様に身体的な問題が発生した際に迅速に対応できるだけでなく、「医療機関と連携している施設」としての信頼度を高めることができます。しかし、そのためには、施設側も医学的な知識を持って対応することが大切です。
医療機関との連携で最も大切なのは情報の共有です。お客様の同意を得た上で、画像診断結果や血液データ、服薬状況などの情報を医療機関と共有できるシステムを作ることで、スムーズな引き継ぎが可能になります。例えば、「この状態は病院でリハビリ」「これならメディカルフィットネス施設でトレーニング」といった形で、医療機関とメディカルフィットネス施設での受け入れ基準を明確にすることで、お客様は安心して体づくりに取り組むことができます。
患者さんはまず医療機関を受診し、医師から病院でのリハビリとメディカルフィットネス施設の説明を受けます。医師が病院でのリハビリが必要だと判断した場合は病院で、そうでなければメディカルフィットネス施設で運動を行います。このような流れに対応できるのも、医療現場で経験を積んだ理学療法士だからこそ可能です。
厚生労働大臣認定の健康増進施設や厚生労働省指定の指定運動療法施設では、医療機関と情報共有や連携を行うために、提携医との契約が必要です。理学療法士が開業するパーソナル型のメディカルフィットネス施設でも、健康増進施設の認定を受けるかどうかに関わらず、医療機関と連携することが望まれます。
医療機関との連携までの流れ
- 地域環境のリサーチ: 開業予定の地域で、自身のメディカルフィットネス施設に合った整形外科医や内科医を探します。総合病院よりも診療所を開業している医師との連携がスムーズに進むことが多いです。
- 連携内容の明確化: どのような連携をしたいかを考え、施設利用者と医療機関双方にメリットがある内容を明確にします。
- 人脈の活用: 地域で医師を紹介してもらえる人脈がある場合は、これを活用して医療機関にアプローチします。
- 提案と説明: 連携サービスと連携内容を基に、メディカルフィットネス事業についての提案・説明を行います。
- 連携の開始: 双方のメリットが理解できたら、実際に連携を開始します。
既に医療機関と連携可能な関係性ができている場合は、①②③を省略して④⑤に進みましょう。
理学療法士主導のメディカルフィットネス:専門知識が生む健康増進の効果のまとめ
最近は小規模なパーソナルジムが増えていますが、競争が激化する中でどのように生き残るかが課題です。
注目されている新しい事業スタイルの一つが、理学療法士の専門知識と技術を活かしたメディカルフィットネス施設です。
理学療法士が運営するフィットネス施設は、医療機関との連携が重要です。情報共有や連携を通じて、施設の信頼性を高め、利用者に対するサポートを強化します。
開業を考える理学療法士は、地域環境のリサーチや連携内容の明確化、人脈の活用などのステップを踏み、医療機関との連携を進めていくことが重要です。これにより、メディカルフィットネス施設は地域社会全体の健康増進に大きく貢献できるでしょう。
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