現在、日本のどの自治体においても医療費や介護費の抑制は大変重要な課題です。自治体ごとに健康寿命の延伸やスポーツの意識の向上による活気ある地域社会を目指し、様々な取り組みが実施されています。多くの自治体が取り組んでいる健康推進事業の中には、健康的な生活習慣を確立するための知識・技術を習得する健康教育や、身体機能の低下を抑制するための機能訓練などが含まれています【※1】。こうした健康教育や機能訓練は、医療的要素を取り入れたメディカルフィットネス施設と非常に相性が良いと考えられます。

自治体がメディカルフィットネス施設を導入する場合、予算(費用)の検討が必須です。本記事では、自治体の皆様が地域の健康推進事業の拠点となり得るメディカルフィットネス施設の導入を検討される場合の予算(費用)について一つの考え方を述べていきます。

自治体運営の運動施設が直面する2大問題とその解決策

自治体が運営する運動施設の多くは、2つの問題を抱えています。1つは、自治体が運営する運動施設も含めたフィットネス業界の圧倒的な人材不足です。フィットネスクラブは年々増加傾向にあります。この成長により、フィットネス業界全体で人材が不足しており、特に専門的な知識と技術を持つ健康運動指導士や健康運動実践指導者の需要が高まっています。自治体の運動施設も例外ではなく、これらの専門家を確保することが大きな課題となっています。

自治体が運営する運動施設の2つ目の問題は、運営にかかる費用面です。

(ここでは、自治体が運営する運動施設において、指定管理制度を採用し、民間企業が管理を担っている場合について述べています)

指定管理者は、各自治体による限られた予算の中で運営するケースがほとんどです。その中で、有資格者を多数採用することは費用面での負担が増えてしまいます。有資格者の雇用などの人的コストをかけることばかりでなく、新たなコンテンツを創出し、質の高いサービスの提供を目指すことも難しいのではないでしょうか。

このような状況で、自治体や指定管理者は、限られた予算を有効に活用しながら、いかにして運動施設の運営を最適化し、住民に質の高いサービスを提供できるかを考える必要があります。

運動施設の自立支援:自走化を実現するための戦略的アプローチ

自治体が運営する運動施設の指定管理者の多くは、毎年計上される予算内で事業を行い、数年ごとの入札により採択されます。指定管理者は予算の枠組みの中で運動施設を運営しますが、施設で得た予算外の利益は自治体へ返還しなければなりません。そのため、指定管理者は限られた予算内でサービスを提供することになり、有資格者や経験者の雇用、質の高いサービスの提供によって収益を上げることは難しいのが現状です。

本来であれば、安価な施設利用料だけでなく、質の高いサービスや運動を提供することで、地域の方々に運動施設をより多く、継続して利用していただけるようにすることが理想です。人材不足と費用面の2つの問題を解決することで、自治体の健康推進事業は地域の健康課題をより良く解決するための事業となるでしょう。

そこで、上記の問題を解決する方法の一つに、運動施設の運営を自治体と民間事業者が協働し、民間事業者が数年後に自走化(自治体からの資金に頼らずに運営)することを前提とした取り組みがあります。このスキームを採用することで、運動施設は予算の枠組みを超えた、より質の高いサービスの提供が可能になります。

たとえば、専門的な運動指導の提供、運動施設の利用者増加、利用者の運動の継続などにより、地域住民の健康づくりに大きく貢献することが期待されます。民間事業者にとっては、運動施設の利用者が増えることが利益の増加につながり、その増えた利益をスタッフやサービスに還元することで、より質の高いサービスの提供が可能となります。このような好循環が生まれ、地域に根差した意義ある事業として、さらに成長する可能性があります。

運動施設自走化へ:具体的なステップと実行方法

では、どのようにこの仕組みが取り入れられるのでしょうか?

まず、初めの3年間は、自治体が運動施設の開業や運営にかかる初期費用や人件費を補助します。この期間中、民間事業者は運営に集中できます。4年目からは自治体の補助金を徐々に減らし、民間事業者が独自で運営できるようにします。

運動施設の立ち上げ時には、運動機器や備品、人件費などの大きなコストを自治体が補助します。これにより、事業が軌道に乗りやすくなります。4年目以降は、自治体の負担を減らしつつ、事業者はほぼ自走化することを目指します。最初の3年間で得た収益は、自走化に必要な費用や人材の雇用・育成、給与や賞与として運営に還元します。

この仕組みを採用すると、専門的な人材の雇用や育成、質の高いサービスの提供、マーケティングに費用をかけることができ、さらに利用者を増やすことができます。その結果、地域の皆さんにより質の高いサービスを提供する運動施設を作り上げることが可能になります。

自治体にはさまざまな交付金・助成金・補助金があり、これらを活用する方法についても自治体と民間事業者が協議することが重要です。自治体の健康課題や社会的課題を解決するための取り組みや、効果測定ができる事業にすることも求められます。

さらに、地域の雇用創出と継続雇用、人材の育成といった重要な役割も果たす必要があります。自治体と民間事業者が協力して運動施設を運営することで、地域の健康課題や社会的課題の解決につながります。また、数年後の自走化を見据えて収益を上げながら、地域人材の新規雇用やスポーツ・フィットネス人材の育成を図る事業モデルとして構築することが重要です。

自治体によるメディカルフィットネス施設導入:効果的な予算計画とその重要性のまとめ

自治体型運動施設の従来の運営手法である指定管理制度には多くのメリットがあり、多くの自治体で採用されています。しかし、この方法だけでは自治体の課題を解決することが難しい時代になってきています。自治体が民間事業者と協働し、民間事業者が得る利益を運動施設のサービスの質向上や地域人材の雇用、人材教育に還元することで、持続可能な好循環を創り出すことが、地域の健康課題や社会的課題を解決する一つの方法になるのではないでしょうか。


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