総合型フィットネスクラブは、ジム、プール、スタジオという「3種の神器」を兼ね備え、その中でもプールは多世代にわたる会員にとって価値の高い設備です。プールは子供から高齢者まで、さまざまな年齢層に合わせたプログラムを提供できるため、幅広いニーズに応えることが可能です。

しかし、プールの運営は高い維持費がかかるため、しばしば施設の経営を圧迫する課題となります。この課題に対処するため、プールをメディカルフィットネスに積極的に取り入れることで、新たな収益源としての可能性を掘り下げます。

水中での運動は、関節への負担が少なく、筋力強化、持久力向上、リハビリテーションに非常に有効です。また、水の浮力を利用した運動は、高齢者や体力に自信のない方、障がいを持つ方々にとっても安全で効果的なフィットネス方法を提供します。

このようにプールをメディカルフィットネスプログラムの一環として活用することにより、フィットネスクラブは単なるトレーニング施設から、地域コミュニティの健康を支える重要な役割を担うヘルスケアセンターへと進化することができます。さらに、メディカルフィットネスを通じて、プール施設の経営効率も改善し、持続可能なビジネスモデルを築くことが期待されます。

日本のフィットネス進化史:プールが変えた健康クラブの風景

日本におけるフィットネスクラブとプールの歴史は、1964年の東京オリンピックをきっかけとする水泳ブームから始まりました。このオリンピックが国内で水泳の人気を引き上げ、スイミングスクールを中心としたスポーツクラブが全国的に増加し始めたのです。これが、日本におけるプール付きフィットネスクラブの幕開けと言えるでしょう。

1980年代から1990年代のバブル期には、フィットネスブームがさらに加速。総合型のフィットネスクラブが急増し、水泳や水中エクササイズは大人たちの間で特に人気を博しました。しかし、この時代も少子化の進行がスイミングスクール経営に暗い影を投げかけました。

バブル崩壊後、経済の低迷はフィットネス業界にも痛手を与えました。会員減少や赤字施設の増加が問題となり、特に大規模なプール設備を持つクラブでは、維持管理費や人件費が経営の大きな重荷となりました。価格競争が激化する中、多くの施設が低コスト運営を迫られることになります。

一方で、ウェイトトレーニングやエアロビクス、ヨガなど、プール以外のトレーニング方法が流行し、プールを持たない小規模施設の人気が増加。現代では、24時間営業のジムやヨガスタジオ、女性専用のサーキット型ジムなど、特定のニーズに特化した施設が全国に広がっています。

フィットネスクラブのプールを活用したメディカルフィットネスは、こうした歴史の流れを受けて、今後の健康増進と経済的な持続可能性に新たな道を切り開く可能性を秘めています。

プール付きフィットネスクラブの可能性:今こそ活用すべきメディカルフィットネス

現在、プールを持つフィットネスクラブの数は全体的に減少しています。しかし、単なる流行やブームではなく、プールの本来の価値を再評価すると、それが施設の大きな特徴や強みとなり、他との差別化要素となる状況が今まさに生まれています。

プールの価値とその活用方法

プールを利用したトレーニングは、年齢を問わず誰でも実施できるため、中高年の方々からの利用も多いという声が聞かれます。水中運動は関節への負担が少なく、筋力強化や持久力向上、リハビリテーションに非常に有効です。

調査結果に基づく考察

株式会社矢野経済研究所の「フィットネス施設に関する調査(2020年)」によれば、プールを持つフィットネスクラブの割合は減少傾向にありますが、これは逆にプールがある施設の希少価値を高めています。これまで様々な困難の中でプールを維持してきたフィットネスクラブには、依然として一定の需要が存在することがわかります。

メディカルフィットネスとの連携

プールをメディカルフィットネスの一環として活用することで、経営課題の解決と地域住民の健康増進を同時に達成することが可能です。水中エクササイズやリハビリプログラムは、高齢者や運動に不安がある方々にも適しており、フィットネスクラブの新たな顧客層を開拓するチャンスとなります。

プール付きフィットネスクラブは、その価値を再評価し、メディカルフィットネスとしての活用を進めることで、競合施設との差別化を図りながら、地域の健康増進に貢献することができます。今こそ、プールの潜在力を最大限に引き出し、新たな可能性を模索する時です。

メディカルフィットネスでプールを最大限に活用する方法

プールの活用方法とメディカルフィットネスの可能性

昨今の光熱費の高騰により、多くのスイミングスクールが月謝を引き上げています。しかし、依然として子どもの習い事の人気No.1はスイミングスクールです。

地域の子どもたちにとって、スイミングスクールは体力づくりの大切な場所であり続けています。しかし、少子化の進行により、スイミングスクールだけでは収益を維持するのが難しくなっています。厚生労働省のデータによれば、1990年には19歳以下の人口は全体の26%でしたが、2015年には17%まで減少しており、今後も減少が予測されています。

図表1-1-1 人口ピラミッドの変化(1990、2015、2025、2065)-平成29年中位推計-
出典:厚生労働省 人口ピラミッド

そのため、スイミングスクール以外の収益源となるプログラムの提供が必要です。例えば、大人向けの水泳教室や中高年向けの水中歩行プログラムなどは、多くの施設で実施されています。特に、若いころの水泳ブームを経験した50代以上の方々にアプローチすることが有効です。

メディカルフィットネスの導入

プールは整形外科的にも膝や腰への負担が少なく、運動に適した環境です。水圧や意識的な呼吸により心肺機能を強化することもできるため、プールを活用したメディカルフィットネスは、中高年の健康づくりに最適です。

医療的な要素を取り入れることで、プールを利用した健康づくりを提案し、中高年のニーズに応えるサービスを提供できます。また、厚生労働省の認定を受け、指定運動療法施設としての認定を受けることで、医師の処方箋に基づく運動が医療費控除の対象となります。これにより、施設利用料が医療費とみなされ、利用者にとっても大きなメリットとなります。

医療機関との連携と専門人材の配置

医療機関との連携や専門的な人材の配置により、中高年の方々に安全で効果的な健康づくりを提供できます。これにより、近隣の競合店との差別化を図り、安心感や信頼感を与えることで、集客効果も期待できます。

温浴設備の併設と若い層の取り込み

大規模な投資が必要ですが、現行の設備を活かして温浴設備(お風呂)を併設することで、集客力を大きく伸ばせる可能性があります。メディカルフィットネスとの相性も良く、サウナなどを導入すれば、若い層も取り込むことができます。

プールを活用したメディカルフィットネスは、地域の健康づくりに貢献しながら、施設の収益化を目指す効果的な方法です。本記事で紹介したヒントを参考に、プールの潜在力を最大限に引き出し、新たな可能性を模索してみてください。新しいプログラムやメニューを導入する際には、ターゲットを明確にし、スタッフの教育や適切なプロモーションが不可欠です。厚生労働省の認定を取得するための対応も考慮する必要があります。

プールを利用したメディカルフィットネスのアプローチのまとめ

フィットネスクラブがプールを維持するためには、水道光熱費やメンテナンス費用が大きな負担となります。特に光熱費の高騰が続く今、多くの施設が苦労しています。また、設備の老朽化によるリニューアルには多額の設備投資が必要です。さらに、プール指導の人材確保・育成や、水の事故に対するリスク管理なども課題となっています。これらの理由から、新規参入が難しい業態と言えるでしょう。

コロナ禍ではフィットネス業界全体が大きな打撃を受けましたが、2023年から復調の兆しが見えています。このタイミングで、プールを活用したメディカルフィットネスは地域の健康促進に貢献すると同時に、少子高齢化社会の課題解決や施設の収益化を目指すことができるのではないでしょうか。

本記事では、プールを活用した取り組みのヒントを紹介しましたが、ぜひ参考にしていただければと思います。ただし、新しいプログラムやメニューを追加する際には、ターゲットを明確にした設計、スタッフの教育、適切なプロモーションが不可欠です。これらが揃わなければ集客につなげるのは難しいでしょう。

また、厚生労働省の認定を取得する場合には、人材や施設要件の整備、申請にかかる事務的な負担もあります。経営視点・マーケティング視点からのご相談も承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。


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